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重箱の隅

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『君は、スロウスタート7話を見たか』

 先日放送され、Webでの配信も始まった『スロウスタート 7話』があまりにも衝撃的な回だったので、その衝撃と考察をここに書いておきます。とにかく、とにかく凄い回だったよ7話……


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 まずは前情報です。『スロウスタート』の主人公は、やむやまれぬ事情で一年浪人してしまった高校一年生・花名。彼女は入学以来そのことを周りに明かせず悩みますが、暖かい仲間たちと交流していく中で一年かけて築き上げてしまった心の壁をゆっくりと解きほぐしていく、という物語です。こう書くと重い作品かと思われそうですが、原作は割とギャグやコメディ要素も強く、アニメもその部分も非常に尊重した明るい作りとなっています。

 また、アニメ版『スロウスタート』は、原作のエピソードをかなりシャッフルし新たに再構成して作られています。シナリオ会議には原作者の篤見唯子先生が毎回参加し、各キャラクターの裏設定や今後の展開も踏まえてシナリオが作られたとのこと。つまり、アニメ版は後のエピソードを踏まえた上で、初期のエピソードも新たな意味を持つものとして描かれ直しているのです。いわば、『新約・スロウスタート』とも言えるかもしれません。それを踏まえた上で次を読み進めてください。


『スロウスタート step7 ぐるぐるのてくび』

■前半戦
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 まず、7話のアバンは、栄依子が青色の染料のようなものが入った小瓶をどこかの店で手に取るシーンから始まります。ここの内容に関しては、後から自ずと判明するので説明は省略します。

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 OPが明けると、まずは栄依子が誕生日プレゼントとしてクラスメイト全員からヘアピンをもらうシーン。このシーンでは、花名とたまての後ろで、冠が単独で数回映されます。この後の展開を見るとこの冠の表情もいろいろと意味がありそうですね。もしくは、下校時のたまてとの会話の「栄依子が人気なのは嬉しい」がそのまま表れた顔なのかもしれません。

 次いで、教室に入って来た榎並先生と栄依子との「攻×攻」のやりとり。この辺も榎並先生が舐めるように栄依子に顔を近づけるシーンや、榎並先生からもらったクリップで栄依子がハートを作るシーンなどなど、非常に魅力的なシーンが満載なのですが……後の展開で語りたいことが多いので、ここの言及もやむなく飛ばします。ごめんなさい!!

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 次に、栄依子が榎並先生のようなタイプが好きだと語るシーン。他の3人の知らないところで栄依子と榎並の交流が何度もあったとわかる、意外性のある展開になっていますね。しかし、これを栄依子の頭の下で聴いていた冠は何を考えてたのでしょうか…… そして、トイレで栄依子が開いたポーチの中に、先ほどもらったクリップがあることから、榎並との交流の中で栄依子に何かしらの感情が育まれていたことが明示的に描かれます。

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 さて、次にくるのはトイレから出た栄依子に、冠が誕生日プレゼントを渡すシーン。プレゼントを差し出された後、「このタイミングで?」「あえて」というやりとりを交わします。ここで栄依子は頭を差し出しますが、冠は栄依子の小指に手作りの指輪を嵌めます。注目してほしいのは、冠が栄依子に指輪を渡してから流れる『BGM』です。ここで流れるBGMは、明るくもなければ暗くもない、曖昧なコードを持続音で鳴らした曲です。なぜここで明るくも暗くもないBGMが選ばれたでしょうか?

 その理由を考えると、一つには冠の行動が「隠し事」「抜け駆け」であることが挙げられそうです。ここで栄依子は察してると思うのですが、冠は花名とたまてのいる教室を避けてプレゼントを渡して来たのですから、おそらく指輪のことはクラスメイトはおろか2人にすらも内緒なはずです。また、冠が隠れて来た理由には、本人の言うようにヘアピンじゃなかったことを隠すためだけ、ということもあるでしょうし、もしくは花名たちの前で渡すのが恥ずかしかったからなどさまざまな可能性が考えられます。が、いずれにせよそれが隠し事であることには変わりありません。

 2人だけの甘美なひと時でありながら、クラスメイトへの後ろめたさもあるという複雑な感情。その状況で流れるこの音楽は、いつもの能天気ではない張り詰めた空気のようなものを感じます。

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 さらに、もう一つの理由には、冠が栄依子に対して強烈な依存心を持つも、一方で栄依子がどれだけ冠のことを思っているか視聴者にも分からないという、2人の「アンバランス」な関係性が要因としてある気がします。小学時代の数日間の思い出だけで栄依子のことを追ってきた、一種狂気的ですらある冠の感情。2人の関係性が単純な双方向でないことに注目し、なおかつ後半の怒涛の展開を見ると、この「アンバランス」さがこのシーンでただ明るい音楽を流せない理由になっていると思うのです。

 余談ですが、このBGMは次のシーンの圧倒的不安定な主人公・花名と先生の会話パートへ若干重なる形で繋がります。このスムーズな場面の繋がりも、もしかしたら「隠し事をしているのは花名だけではない」ということを暗喩しているのかもしれません。

 さらに余談ですが、この回の前半は天候が悪いという設定であり、特に栄依子がトイレから出てきたシーンの背景が他の回に比べてややトーンを落とした色彩になってます。この辺りの色彩は、むしろ後半の演出と整合性を持たせるために役立っているとも見えますね。

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 次に、4人そろって下校するシーン。たまてが「クラス全員プレゼントがヘアピンだなんて」「クラス全員の心が一つになるなんて奇跡ですよ!」と嬉しそうに大声で喋ります。これが本当に偶然かは分かりませんが、まあコメディ作品なのでそういうこともあるでしょう。それよりも、みなさんお気づきでしょうか。クラスの心が一つになってません。冠が指輪を渡したからです。

 そして、さらに注目してほしいのがその後の冠と栄依子。冠は普段と変わらない様子でたまてのボケに乗っかり、同時に栄依子も何も言わずスルーします。たまてが指輪のことを知っていれば嫌味になってしまうので、たまてと花名は本当に指輪のことを知りません。もし、栄依子がトイレの前で「冠が指輪のことを誰に明かしているのか」を測りかねていたとしても、この冠の無言の反応を見た瞬間に「2人にも内緒」であることを察せるので、土壇場で反応を合わせた可能性もあります。いずれにせよ、ここで2人は言葉にせずとも指輪のことを秘密にしています。

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 その次のシーンでは、たまてが冠に「モテにもほどがありますよこの人は?」と聞き、冠は「栄依子がみんなに好かれてるのは嬉しい」と寛大に答えます。が、このとき冠は明らかに目を逸らしています。この少し自信なさげな反応には「たまてにある程度本心を見透かされており、それを分かった上で本心を隠そうとする」といった意味や、「実際たまての言葉が図星であり、若干の焦りがあることをごまかそうとしている」といった意味が含まれている気がします。また、冠の寛大な返答は、この時クラスメイトから抜け駆けした直後であるがゆえに、たまての言うような精神的な余裕があったのかもしれません。

 日常系のギャグをいつも通り描くと同時に、しれっと女性同士の秘密の共有が描かれてしまったこのシーン。これだけでも非常に濃いのですが、栄依子が右手で犬を作り「わん」と言ってから、問題の後半戦が始まります……

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■怒涛の後半戦

 後半の演出は、これまでのスロウスタートとは打って変わってリアリスティックで異質なものです。BGMは限界まで削り、わずかな環境音がうっすらと流れる程度。画面の構図や色彩もこれまでと変わり、本当にここだけ別のアニメが始まったかのような錯覚に陥ります。尺の長さで言っても、AパートBパートの合計時間は20分26秒で、榎並の部屋のパートは8分27秒間。EDに入るまでを含めると、後半だけで13分11秒も費やしているという恐ろしい分量です

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 ナタリーのインタビューいわく、この演出は「原作でも栄依子と榎並先生の回だけ異質な雰囲気になっている」ことを再現したかったゆえに生まれたものとのこと。視聴者は、これまで花名たちと同じようにほんわかした日常を眺めていた中で、突如として栄依子と榎並先生の普段見せないベールに覆われた一面を見てしまいます。この衝撃は、過去にドタバタのギャグをしっかりと描いていればいるほど鮮明に映るはずです。実際、知り合いも視聴後に「何かいけないものを見ているような気になってしまった」と言ってました……

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 個々の演出を見ていくと、まずは目を覚ました榎並先生の気だるげな姿と、彼女の視点で描かれる栄依子の姿。栄依子の両手は布でグルグルに縛られています。扇情的ですね。さらに、頭を抱えた榎並を部屋の端から映したカットでは、カメラを固定したまま長尺で栄依子がトイレから帰ってくるまでが描かれます。この空気感は凄いですね。

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 回想シーンでは、夜の街でベロンベロンに酔っぱらった榎並と彼女を介抱する榎並の友人を栄依子が見つけます。友人に変わって彼女を家まで送ることになった栄依子。(あっ、栄依子が夜の街をうろついていた理由は篤見先生が明かしています。彼女の母親が経営する後述の雑貨店がすぐ近くにあったんですね) その後、2人が榎並の家に帰宅、ここではわざわざ玄関が閉まる瞬間を別カットで入れたりと、また途轍もないいかがわしさ。ここまで露骨すぎるともはやギャグですよね。

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 そして、次の栄依子が榎並をソファーに寝かそうとして床に倒れ込むシーン。栄依子は榎並に覆いかぶさってしまい、榎並の体に付いてしまった手を慌てて引っ込めます。慌てて引っ込めるの……ですが、榎並が拒絶しないとわかると、今度は逆に顔をやや胸に埋めます。この反応は、榎並の相変わらずな姿に安堵したのか、逆に残念に思ったのか。はたまた、常に榎並先生を攻略しようとしている栄依子ですから、拒絶しないのを良いことに反射的に触っておこうと思ったのかも……?

 その後の、栄依子がバッグを拾って座り直すカットや、泥酔した榎並がわけの分からない返答をしたりするシーンも良いですね。普段からよく動くスロスタですが、ここでもその良さを発揮しています。栄依子はここで榎並を攻略する……というか、本心を聞き出そうといろいろ話しかけますが、榎並は泥酔していてもなおデレを見せません。

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 ここで少し話を変えて、画面の構図の話。いつものスロウスタートでは4コマ漫画を意識したカメラ真横固定の構図を主軸にしていますが、このパートだけは部屋を斜めに見下ろしたり、テーブルの下から見上げたりとかなり立体的な構図に変わっています。アニメイトのインタビューいわく、橋本監督はきららアニメではレイアウトでパースをあまりつけないようにしているそうですが、このパートだけは意図的にパースを強調して描いています。

 さらに、2人が目を覚ました部屋は朝日の光と部屋の影の陰影で、ややぼやけたような色彩になっています。同じく監督のインタビューによれば、このアニメでは花名のバックグラウンドによって全体の印象が暗くなりすぎないように、背景や色彩設計を明るめに設定しているそうです。が、これについてもこのパートは現実的な色でまとめてあります。

 あと、BGMの無い所で鳴っている空調のような環境音ですが、結構細かく音量調整されています。先生が目を覚ました朝はやや大きめに鳴っていますが、回想シーンで帰ってきた夜中は小さめに、回想が終わると明らかに大きくなっていたりと、わりかし露骨に環境音に気づきやすくなるよう調整されています。細かい空気感の作り方が聴けますね。

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 さて、2人が目を覚ましてから、榎並は「お前、無断外泊してないか?」と気づきますが、栄依子は「友達のお宅に泊めてもらうと連絡入れてあります」と答えます。榎並はお前やっぱり縄ほどけてたんじゃねえかとツッコみますが、この演出だと家に電話したことが嘘みたいにも見えちゃいますね。というか、自分でほどけてたとしても、栄依子は昨日の夜縛られた時と自分で腕を結び直した時に何を考えてたのか……とか考えるといろいろと妄想が膨らみます。

 その後、シャワーを浴びる榎並は栄依子に「家探しとかするなよ」と命じます。別にここで栄依子はその言葉に従う必要はないのですが、栄依子はクソ正直にコーヒーメーカーを見つめて待っています。このカットも視聴者が栄依子が何を考えているのか、じっくり想像を膨らませてもらえるよう長尺をとってますね。テレビアニメの30分という枠をギリギリまで使って空気感を表現しています。ここもBGMは一切なし。

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 榎並がシャワーから戻ってきてコーヒーを飲んだあと、栄依子は一度家に帰って着替えてから登校すると言います。ここ素肌の上にシャツ一枚の榎並先生がエロい。そして、栄依子は日直なので花名と早めに登校しなきゃいけないことを伝え、自分はシャワーを浴びるとギリギリかな……と続けます。

 このあたり、栄依子が素なのか、もうワンアクションかけようとしたのか分かりません。映像を見てると、栄依子は榎並が返した「真面目だなぁお前ら、まあこっちとしちゃ有難い限りだが」という言葉に若干不満そうにも見えますが…… 自分としては、榎並を介抱したことでこの日の優位合戦が勝ち確だと思ってしまったゆえに素が出てしまった説を推します。まあ、その後の榎並先生の行動で一気に形勢逆転してしまうのですが……

 榎並の行動により、栄依子はこれまでの喋りと比べて明らかにそそくさとした様子で榎並の家を出ていきます。椅子から降りて踏み出した足が朝日に照らされるカットも良いですね。見ているこっちまで足にじんわりと日光の熱を感じてしまう気さえします。

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 そして、場面が学校に戻りようやくBGMらしいBGMが流れます。あー、8分間緊張した。ようやくいつも通りのスロウスタートが始まる…………と思いきや。栄依子は榎並の胸に光るネックレスに気づき、またBGMが止まります。安心させてくれ…… 榎並はそれを「昨日買った」と言いますが、このネックレスには秘密があり前半のヘアピンの話へと繋がります。

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 その場に居合わせた花名は、先生と話していた時に何かあったのでは……とその後の廊下で栄依子に声を掛けます。ここ、地味なんですけど、秘密を持ってしまったことで他人に心の壁を築いてしまった花名が、自分から他人に秘密を打ち明けてほしいと投げかける何気に勇気あるシーンですよね。この行動、前半の先生との会話が後押しになってるのかもしれないですね。

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 栄依子は花名を自分の秘密の場所に誘い、自分が自作のアクセサリーを母の雑貨店で売っていること、そのことを誰にも話していないこと、そして榎並が付けていたネックレスが自分の作ったものだったことを明かします。ここで花名に秘密を明かした理由は、もしかすると前半の花名とたまてが栄依子を拝むシーンで、花名が「自分のことよりも本人の幸せを願う」という行為をしていたからかもしれません。こういった地道な好感度上げがイベントスチルの回収に繋がっていくわけですよ。

 ここで驚くべきことは、栄依子からでた「アクセサリー作ってること人に言ったの初めてなの」という言葉。これには花名も驚いているのですが、視聴者はさらに「冠にも言っていない」ということに驚くことになります。冠は栄依子を追って進路まで変えてしまったほどですが、一方の栄依子にとって冠はあくまでも高校に入ってから再開した旧友であり、「なんでも打ち明ける」といった心を開ききった間柄ではないと見ることができます。

 前半では冠が一人指輪を渡したことで下校時に精神的余裕を見せていましたが、後半では栄依子と榎並先生との濃密な関係が描かれ、さらには冠と栄依子との「アンバランス」な関係性も描かれてしまうという、冠にとっては一種残酷な展開が描かれてしまいました。ここまで見てから振り返ると、指輪を渡すシーンで明るい音楽がかけられるわけがない、と思えてしまうんです。

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 また、花名にとって他人から秘密を打ち明けられるというのは特別な意味を持ちます。前半では冠と栄依子の「秘密」が描かれ、また後半では栄依子のアクセサリー作りという「秘密」が描かれました。そして、アクセサリー作りについては花名に打ち明けられ、花名は「自分もいつか秘密を打ち明けられるだろうか」と考えます。この、「他人の知らない一面を少しづつ知っていく」という要素は、アニメ版スロウスタートにおいて重要な要素として描かれているような気がしますが、それについてはまた機会があれば書きたいです。それにしても、栄依子、冠、榎並の3人をメインに描きながら、花名の成長もしっかり描くという見事な構成ですね。

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 日常系アニメの中に突如現れた、圧倒的にリアリスティックな百合描写。そして、微妙なすれ違いや「アンバランス」な関係性。そんなものを、コメディ作品の中ででここまで描いていいのか! なんちゅうもんを見せてくれたんや橋本監督は……! という感想しか出てこない、ほんとに恐ろしい回だったよ7話は…… このエピソードは監督や制作陣、そして篤見先生による「『スロウスタート』はここまで見せられる作品である」という熱い意思が込められたエピソードだと感じました。

 なお、スロウスタート7話は現在GYAO、ニコニコ動画などで無料配信期間中です。是非、是非視聴してください!

ニコニコ動画(2月27日まで無料配信)

GYAO(2月27日まで無料配信)


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[ 2018/02/23 13:15 ] アニメ | TB(0) | CM(0)
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プロフィール

杜夢(旧名:ですぅ。)

Author:杜夢(旧名:ですぅ。)
別名:惑星P
杜夢は「とむ」と読みます
絵とマンガとアニメと音楽が好き。特に4コマ漫画とプログレ。

もともとDTM作曲家として活動していましたが、病気による聴力の悪化で音楽方面の活動を一旦休止。現在、Bandcamp、Soundcloudなどで少しずつですが活動を再開させています。

数年前からもっぱらTwitterにいてBlogは放置気味。

作ったものは右のリンクから見たり聴いたり買ったりできるはずです。



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